| 人にはそれぞれ心に残る言葉というものがある。私はその多くを師リー・ストラスバーグに負っている。 ニューヨークにいる時、私はよく彼の家を訪ねたものだ。いや、家というよりも彼の場合は、10部屋に及ぶ各部屋はもちろん廊下、 台所に至るまで、およそ余地のあるところ全面これ書物で埋まっていて、ビルのワンフロアを占めるかなり大きな住まいがあたかも図書館の書庫を思わせるものだった。 そのうえ、数万点にのぼるレコード、絵画のコレクションを含めると、まさに壮観というべきかもしれない。私たちはその 書物の壁の中で語り合ったものだ。 あるとき――それは私がアクターズ・スタジオに通い始めて間もない冬の夜だったが――彼のお気に入りのヤッシャ・ハイ フェッツのレコードを聞きながら、ひと時を過ごしたことを思い出す。 ハイフェッツのあの消え入るような繊細な、それから一転してダイナミックな旋律が次第に私の心を動かし、ある種の抑えがたい感動を呼び醒ましていた。
結果が努力の結晶として、ひとりでに生まれ出てくるという平凡な真理を忘れかけていたのだった。 今私は稽古場で、若い俳優たちと創造活動を続けながら、改めて、あの時の彼の言葉を思い出すのである。 |